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伊藤理恵コラム

2015年4月12日 | 伊藤理恵コラム

サイズ違い

ピアノはヨーロッパで生まれ、発達した楽器だ。ゆえに、そのサイズの基準も、ヨーロッパである。親指と小指を広げて、10度すなわちドからミまで届くような人間向きに設計されている。

私は自慢ではないが手が小さい。いや、自慢できるほど小さい。間違いなく日本人の標準にも満たない。
10度どころかオクターブだけでももちろん辛いが、特に人差し指から小指の間隔が狭いので、人差し指と小指で長6度をつかむことがほぼ不可能に近い。だから短調でオクターブにはさまれた主和音が出てくると、それを一度に掴めないのである。しかも、成長期に練習をサボったために、左手は右手よりさらに小さいときている。

だから、ピアノの道に進む(などという大層な決意が、十代の自分にあったわけではないのだが)と私が言うと、当時のピアノの先生などは揃って猛反対した。そんな小さい手でピアノを弾いている人なんかいませんと。しかし根がひねくれ者の私は、そう言われるとやってみようじゃないという気になってしまい、いろいろ紆余曲折はあったものの、結局その方面に流れてきてしまった。しかも気が付いたら、熊のような手で弾くのに適しているような、ブラームスなどを好き好んで弾いているではないか。

小さい手でピアノを弾くことは、無理があり、リスクを伴う。そして、時には演奏不可能かと思うような時もある。しかし、発想を転換し、観察力を養い、そして耳を鍛えれば、不可能が可能になることがあるのだ。

そのために必要なことは、運指の工夫、左右の手を自在に組み合わせる、指のポジショニング、手の移動をスムーズにするための腕の使い方、鍵盤を見るタイミングなど物理的なことから、届かない和音の様々な演奏法、ペダリング、音色やバランスなど音楽的な構成、また故障を起こさないような練習法など、色々とある。またこのコラムでも折に触れ取り上げていきたいと思う。

普通のサイズの手を持つ人ならば難なく弾けてしまう1小節を、何とか弾きこなすべく何時間も奮闘することは、確かに辛いときもある。しかし、その1小節と長く付き合うほどに、作曲家の意図が垣間見え、作曲家とより親しくなれるであろうとも思えるのだ。

とはいえ、夢の中で良いから、10度が届く手で、ブラームスのコンツェルトなどを楽々弾くのはどんな感触なのか、一度でいいから味わってみたいとも思うのだが。

伊藤さん1